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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル 8

【直腸カルチノイドの怪】

カルチノイドとは、ちょっと変わった名前です。なぜなら、自己主張をしないで、「あいつに似ている」といっているのに過ぎないのですから。

カルチは「癌」、ノイドは「類」という意味です。つまり、カルチノイドを直訳すれば、「癌もどき」ということになります。

カルチノイドは、確かに癌より悪性度が低いといえます。ですから、直腸カルチノイドの治療方針は、「1cmぐらいまでの大きさの直腸カルチノイドは局所切除だけにし、2cmを超えるくらいの大きさの直腸カルチノイドは、癌と同じような手術が必要」といわれるのです。

でも、直腸カルチノイドには、専門家だけの知る不思議なデータがあるのです。

 

直腸カルチノイドは、ただその部分だけを切除する「局所切除」がいいのか、直腸癌の手術と同様にリンパ節までも含めた大切除術が必要なのか、実は、臨床家でも迷っており、細かいところでは、医師により、病変の大きさとは無関係に、局所切除したり、リンパ節まで取る大きい手術をしたりしているのです。

周囲のリンパ節に転移しているなら、それを切除しなければ、命を救うことはできません。また、周囲のリンパ節に転移するような悪性度のないものならば、リンパ節を切除するという大きな手術は必要ないのです。

外科医は悩みます。これが、手術前に分ればよいのですが・・・。

 

現実には、2cm近くの大きさの直腸カルチノイドでは、医者により、患者により、病院により、リンパ節の切除術が行なわれたり、行なわれずに小さく切除されたりといった、方針の入り乱れた治療がなされています。

その結果分ったことは、局所切除された直腸カルチノイド症例では、リンパ節が切除されていませんが、リンパ節を切除しなくても再発率がひくく、結果として多くの症例でリンパ節転移していなかったと考えられるデータなのです。一方、術前検査でリンパ節転移していないと思われた直腸カルチノイドでも、念のためリンパ節まで切除された症例での顕微鏡での病理学結果では、実は、かなりの率でリンパ節転移が見られるデータを示しているのです。

これは何を意味するのか。

外科医が悩んだ挙句、結果としてリンパ節が切除されなかった直腸カルチノイド症例では、リンパ節転移していなくて、また、外科医が悩んだ挙句、結果としてリンパ節切除された直腸カルチノイド症例では、リンパ節転移していて、リンパ節の切除術という大きな手術をして妥当だったということなのです。

つまり、結果として、手術されたリンパ節にはカルチノイドの転移があり、手術されなかったリンパ節には転移がなかったということなのです。

カルチノイド腫瘍細胞は、手術されることをしって、リンパ節に転移したというのでしょうか

それとも、外科医の悩みが、いい結果を生み出したのでしょうか。ほとんど根拠のない二者択一だったはずなのに、悩んだ末に選んだ道がいつも正しかった、という「神に祝福された」人の人生のような結果なのはなぜでしょうか。どちらの症例も、術前検査では、リンパ節に転移がないと考えられていたのに。


データでは差がなくても、外科医が患者さんを目の前にしてなんとなく選択する術式、あるいは、手術する、しないの決断は正しいことが多いというのには、外科医ならみな気づいているのですが、それと同じことがカルチノイドのリンパ節にも起こっているのでしょうか。「外科医の感覚」と呼ばれるものがリンパ節転移の有無までわかるとは、ふつうは考えられないのですが。

 

これは、「直腸カルチノイドの怪」といわざるを得ません。

これが、自己主張をしないものの自己主張なのかもしれません。

  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える