カルチノイドとは、ちょっと変わった名前です。なぜなら、自己主張をしないで、「あいつに似ている」といっているのに過ぎないのですから。
カルチは「癌」、ノイドは「類」という意味です。つまり、カルチノイドを直訳すれば、「癌もどき」ということになります。
カルチノイドは、確かに癌より悪性度が低いといえます。ですから、直腸カルチノイドの治療方針は、「1cmぐらいまでの大きさの直腸カルチノイドは局所切除だけにし、2cmを超えるくらいの大きさの直腸カルチノイドは、癌と同じような手術が必要」といわれるのです。
でも、直腸カルチノイドには、専門家だけの知る不思議なデータがあるのです。
直腸カルチノイドは、ただその部分だけを切除する「局所切除」がいいのか、直腸癌の手術と同様にリンパ節までも含めた大切除術が必要なのか、実は、臨床家でも迷っており、細かいところでは、医師により、病変の大きさとは無関係に、局所切除したり、リンパ節まで取る大きい手術をしたりしているのです。
周囲のリンパ節に転移しているなら、それを切除しなければ、命を救うことはできません。また、周囲のリンパ節に転移するような悪性度のないものならば、リンパ節を切除するという大きな手術は必要ないのです。
外科医は悩みます。これが、手術前に分ればよいのですが・・・。
現実には、2cm近くの大きさの直腸カルチノイドでは、医者により、患者により、病院により、リンパ節の切除術が行なわれたり、行なわれずに小さく切除されたりといった、方針の入り乱れた治療がなされています。
その結果分ったことは、局所切除された直腸カルチノイド症例では、リンパ節が切除されていませんが、リンパ節を切除しなくても再発率がひくく、結果として多くの症例でリンパ節転移していなかったと考えられるデータなのです。一方、術前検査でリンパ節転移していないと思われた直腸カルチノイドでも、念のためリンパ節まで切除された症例での顕微鏡での病理学結果では、実は、かなりの率でリンパ節転移が見られるデータを示しているのです。
これは何を意味するのか。
外科医が悩んだ挙句、結果としてリンパ節が切除されなかった直腸カルチノイド症例では、リンパ節転移していなくて、また、外科医が悩んだ挙句、結果としてリンパ節切除された直腸カルチノイド症例では、リンパ節転移していて、リンパ節の切除術という大きな手術をして妥当だったということなのです。
つまり、結果として、手術されたリンパ節にはカルチノイドの転移があり、手術されなかったリンパ節には転移がなかったということなのです。
カルチノイド腫瘍細胞は、手術されることをしって、リンパ節に転移したというのでしょうか
それとも、外科医の悩みが、いい結果を生み出したのでしょうか。ほとんど根拠のない二者択一だったはずなのに、悩んだ末に選んだ道がいつも正しかった、という「神に祝福された」人の人生のような結果なのはなぜでしょうか。どちらの症例も、術前検査では、リンパ節に転移がないと考えられていたのに。
これは、「直腸カルチノイドの怪」といわざるを得ません。
これが、自己主張をしないものの自己主張なのかもしれません。