【ノロウイルス腸炎】
これは、2004年から始まる冬に、マスコミによって有名になった病気ですね。ある老健施設で集団発生があり、そのために4人の方が、短期間に亡くなってしまったの言うのは、まだ、記憶に新しいですね。(それ以後、毎年のようにこの病気で亡くなっています。誰かに責任を負わせたい、報道が目につきますね)
よく、「風邪がおなかに来た」といっていましたよね、昔。われわれ医者だって、よく、そういっていました。それが、原因を確かめれば、ノロウイルスであることが多いということですね。
ノロウイルスは、小型球形ウイルスの一種で、カキ貝による食中毒の原因のひとつとして、最初は注目されたのです。しかし、それよりも、冬に流行る、ウイルス性の下痢症の原因として、ポピュラーなものだったのですね。つまり、今年の下痢はおなかに来るといわれたやつです。
でも、普通は、原因なんて確かめませんよ。第一、風邪と同じくらい、いずれは治りますし、調べるのにも時間がかかり、たいていは、調べがついたころには、治っていますから。そして、どうせ治る病気の原因ウイルスを調べることに、健康保険が利きませんからね。
でも、あの当時(1995年1月)、マスコミの論調は、原因を調べなかった、老健施設の責任者を、殺人事件の犯人みたいに報道されていましたね。あのように報道されてしまうと、もう、どうしようもありません。論理的な反論なんてできませんよ。かわいそうなものです。それに、4人の方が亡くなったというのは、事実なのですから。申し開きはできません。
さらに、ウイルスの専門家と称する人を、新聞社は、呼んできて、しゃべらせるのですね。こんな時期にマスコミの論調に棹差せる人なんて、そうはいませんでしたね。
でも、私も老健施設で何回か頼まれて、医師としていったことがあるのですけれど、老健施設というのは、80から90歳、あるいはそれ以上の高齢の方が、集団生活している場なのですよね。ほとんど寝たきりの方と、痴呆症(認知症)の方の比率がとても高くて、普通のわれわれの生活の中ではあのような方を目にしないのは、あのような施設に集中的に入っているという事情もあるのですね。あのくらいの高齢の方は、病気にならなければ、どうにかこうにか、健康ですけれども、ひとたび、風邪やインフルエンザにかかれば、風前のともし火なのですね。風邪は、こういう方には、万病の元といわれるとおりなのですね。人間の一生にはおわりがありますから。ガンや心臓病という、ある意味では劇的な病気にならなくても、人間の一生には、終わりがあるように決められているのですね。
あの事件は、4人の方が亡くなったのですけれど、本当は、その4人が、どのような方たちだったのかが問題なったのですね。風邪やインフルエンザにかかっても死ぬはずのない方だったのか、風邪にかかれば、冬を越せないような方だったのか。
生きる力のある患者さんの場合、水分補給目的で点滴をしてあげると、たいてい良くなりますね。1日だけ点滴をすると、翌日は外来に来ないのが普通ですよ。
それから、集団発生をしたことも問題視されていますが、たいてい、集団発生していますよ。小学校時代を思い浮かべてください。インフルエンザだって、風邪だって、クラス中、あっという間に、はやって、駆け抜けていったではありませんか。それは、誰かが悪いわけではなかったのですね。
でも、とにかく、ここでお伝えしなければならないのは、ノロウイルスの感染を防ぐのに、よく手を洗うという、きわめて単純で、当たり前のことが有効なのですね。覚えてください。「風邪」には「手洗い」ですよ。
でも、痴呆症の90歳くらいの方は、爪の間に便をためていることなんて良くあることなのですね。そういう方の介護は本当に大変です。
(これを書いたのが2005年だったのですが、2006年暮れに大流行してまたまた、マスコミで話題になりました。とにかく、予防は、手洗いです。)
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