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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル49


【別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法

ブラッドパッチEMR (blood patch EMR)の紹介

この章では、私が開発した、安全性を重視した新しい大腸ポリープ切除(ポリペクトミー)の方法を紹介します。(もちろん大腸ポリープだけでなく、胃などの他のポリープにも応用可能です。)

大腸内視鏡検査で発見された大腸ポリープは、特殊な「輪になったワイヤー」を用いて、電気を流しながら切除することが出来ます。これは、「ポリペクトミー」と呼ばれる方法です。

このポリペクトミーには欠点がありました。それは、通電をすると大腸の壁全体が焼けて穴が開いてしまうことがあることです。

また、キノコのように盛り上がった形の大腸ポリープはとりやすいのですが、平坦な大腸ポリープは輪をかけることができませんので、ポリペクトミー(ポリープを切除すること)ができないという決定的な欠点がありました。

 

そこで登場した方法が、EMR(内視鏡的粘膜切除術)と呼ばれるポリペクトミーの方法です。ストリップバイオプシーと呼ばれたこともあります。

それは、大腸ポリープの下(粘膜下層)に生理食塩水を注入して粘膜を盛り上げる方法で、平坦なポリープをキノコのような形のポリープと同じようにして、切除する方法です。

 

しかし、この方法にも欠点がありました。

生理食塩水はすぐに吸収されて、程なく、平坦に戻ってしまうことです。(これは手技上の欠点です。下手な方は、あわててEMRをしなければならないので、とても危険です。)

さらに、粘膜下に注入する生理食塩水には、出血を予防する作用がありませんでした。最初からそんなことは考えられていませんでした。(これは安全性に対する大きな欠点でした。)

さらに、さらに、ポリペクトミーされた部分(つまり、粘膜が剥離された部分)には、何もなくなって、壁が薄くなります。穿孔(大腸に孔があくこと)を予防する手段が何もとられていませんでした。(これも安全性に対する大きな欠点です。)

 

生理食塩水を用いた、一般的におこなわれるEMRには、これらの欠点がありながら、今までの内視鏡医の方々は、なぜ、新しい方法を考えなかったのか、わたしには不思議でなりません。

 

わたしは、その解決として、ブラッドパッチEMR (blood patch EMR)という、新しい方法を開発しました。

 

それは、きわめて簡単な方法で、コロンブスの卵のような方法です。

 

生理食塩水の代わりに、患者さん自身の血液を、粘膜下層に注入し、それ以外は、従来どおりに、EMRをする方法です。

すると、打ちこめられた血液がちょうどいい具合に血糊となって、出血を防止しますし、粘膜が切除されて薄くなった大腸壁を、血液がパッチして、守ってくれるのです。だから、ブラッド(血液)パッチEMRと名づけました。

血液はからだに害はありません。内出血しているのと同じですから。生理食塩水に、薬を混ぜて、出血を防止するような方法とは大いに異なるところです。

また、長い時間、粘膜の盛り上がりを保ちますので、手技的にも時間に追われてあわてなくてすみます。

そして、自分の血液は、安い。つまり、ただです。

 

出血防止、大腸壁保護、無害、盛り上がりの長時間化、安い、、、まさに、1石5鳥の ブラッド パッチ EMRです。

しかし、注意があります。

 

このブラッドパッチEMRは、すぐれた方法です(と、私は思っています。)が、無闇に、主治医に、「このブラッドパッチEMRの方法で、大腸ポリープをとってほしい」と頼まないでください。なぜならば、どのようなすぐれた方法でも、慣れていない場合には、かえって失敗を起こす可能性が高く、危険なのです。

新しい手技を導入するには、それなりの準備と実力が必要ですから。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える