【盲腸ポート】
「盲腸ポート」という治療方法についてお話します。
これからお話しする、「盲腸ポート」は、比較的新しいテクニックです。
そして、「盲腸ポート」の経験のある医師や施設は限られているのが現状です。
ですから、今までこの盲腸ポートの話を聞いたことがなかったかもしれませんね。
その理由のひとつには、盲腸ポートが必要な状態の患者さんを(変なことではありますが、)まじめに診ている医師が少ないということがあげられます。排便機能の専門家が非常に少ないということです。
そして、排便機能の専門家が、盲腸ポートを内視鏡的に入れるテクニックを持っていないことも多いという、皮肉なことも一因だと考えられます。
では、前置きはほどほどにして、盲腸ポートの本題に移ります。
肛門機能が廃絶し、もうどのような肛門手術でも肛門機能を改善させられない場合、最終的な方法として、「盲腸ポート」という選択肢があります。
これは、盲腸に胃ろうキットであるシリコンの管を設置して、その設置された管(盲腸ポート)を通じて、盲腸から大腸全体を浣腸するというものです。
そもそも浣腸は、普通、肛門からグリセリン液を注入して、大腸の蠕動運動を誘発し、排便を促すというものです。しかし、これには、2つの問題点がありました。
ひとつは、肛門からグリセリン浣腸液を注入しなければならないため、注入そのものが難しいということです。お尻は自分では見えませんからね。また、浣腸を他人にしてもらうことには、羞恥という壁がありますね。
もうひとつは、肛門から注入した浣腸液は、直腸にとどまることが多く、大腸全体に広がるのは、なかなかに難しいということです。
その2つの問題をクリアーするために、盲腸からの順行性の浣腸が考えられました。順行とは便の流れてお同じ方向に浣腸するということです。
まず、開発されたのは、Malone手術といわれるものです。
この手術は、盲腸に付属した虫垂を皮膚まで持ち上げて、皮膚に開口させ、そこから、ストローのような管を挿入して、浣腸液を注入するものです。いくつかの論文によれば、この方法はすぐれた方法であるということでした。
実は、過去に、私は2例だけMaloneの手術の経験があります。
おそらく、私が所属していた施設および関連施設をあわせてもその2例だけだったと思いますが、不幸にも、あまり、いい結果を出すことは出来ませんでした。論文では触れられなかった不都合があったからです。
もともと排便機能に問題のある人に手術を行うので、この手術後に消化管の動きの不調がでることは、当然予想されます。私の手術した二人の方もそうでした。そのため、患者さんの満足が十分に得られなかったことと、その2人はともに高齢の方でしたが、虫垂の開口部にうまくストローのような管を差し込むことが出来なかったことによりました。また、その管を入れるとき痛みもありました。(確かに、トイレは十分に明るいとはいえず、高齢者の視力では難しいことだったかもしれません。さらに、一人の肩は、神経病も患っていました。)そして、最大の欠点は、虫垂の開口部から、便中が逆流して、おふたりともそれに耐えられないことでした。便秘症も合併していた方でしたので、腸内圧が高かったのかもしれません。
以上の理由で、Malone手術は、私の中では捨てられた手術でした。
それが、もう1度復活したのは、盲腸ポートが必要な患者さんが私の前に現れたこともありましたし、また、盲腸ポートは、大腸内視鏡の得意なものとしては、無麻酔で、簡単に施行することが出来、十分な満足度が得られない場合は、その盲腸ポートを抜いてしまえばさ、からだに、1cmほどの創跡が残るには残りますが、それ以外の欠点はないように思えたからです。
そこで、グリセリン浣腸を頻回に行う必要がある方や下剤を大量に飲んでいて、さらに、肛門機能が廃絶している方を対象に、盲腸ポートを、試みました。
結果は、今までのところ、盲腸ポート挿入に際し、大きな合併症なく、さらに、患者さんの満足は得られました。特に、驚いたのは、盲腸ポート周囲から、便汁の逆流がまったくといっていいほど、見られなかったことです。
順行性の浣腸というアイデアではまったく同じ、Malone手術と盲腸ポートですが、結果が、明らかに異なりました。
肛門機能が廃絶し、下剤や浣腸を大量、多数行わなければならないような方には盲腸ポートは、選択してよい、治療法といえます。
盲腸ポートは現在、保険適応になっていないし、大腸内視鏡的に行うには、いくつかの細かなノウハウがあるにはあるのですが。
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