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「新肛門」造設手術を世界で唯一実施の名医

【名医・名薬はコレだ】
国際医療福祉大学臨床医学研究センター・佐藤知行助教授
meii20050704-1.jpgmeii20050704-2.jpg 便が排泄(はいせつ)される直前にためられているのが直腸。便と接している時間が長いこともあり、下部消化管(小腸から下)にできるがんの3−4割が直腸がんといわれている。直腸がんの治療では、“がんを取り除く”という最重要課題を優先させて手術した場合、人工肛門を使うことを余儀なくされることが多い。しかし、人工肛門は日常生活を営むうえでさまざまな苦労を強いられる。(2005.07.04掲載)

 今回紹介する国際医療福祉大学臨床医学研究センターの佐藤知行助教授=写真左=は、人工肛門ではない新たな肛門を作ることで以前の状態に近い排便を可能にする手術を編み出した。
 「人工肛門というのは、肛門につながっていた腸管ががん切除のために短くなり、肛門も切除するため腹部に排便のための穴を開けるもの。便の漏れを防ぐため、ビニールの袋をかぶせてのりで腹部の皮膚に張り付けておくのですが、夏は汗や高温でのりがはがれるなど、多くの患者さんが苦労しているのが実情です」
 佐藤助教授は、がん組織を切除する際に腸管を長めに残しておき、お尻の中心にその出口を持ってくるという手術を考案。しかし、それだけでは肛門機能は果たせない。そこでお尻に走っている「大殿筋」という筋肉を新しい肛門部に巻きつけ、陰部神経につなぐことで括約筋の代替機能を持たせることにした。新しく作り直した肛門、つまり「新肛門」だ。
 これまで36人の直腸がん(肛門がんを含む)の患者が新肛門を造設し、手術後のアンケートでは8割の人が満足しているという。
 当初はがんの切除と一緒に新肛門手術も行っていたが、手術の長時間化に加えて、別に手術したほうが手術後の経過がいいことが分かってきたため、現在は(1)がん切除と直腸再建(仮の人工肛門を造設)(2)新肛門造設(3)人工肛門閉鎖─の3段階で手術を行っている。
 現在この手術ができるのは、日本国内はもとより全世界で佐藤助教授ただ一人。というのも特に日本では、技術的な問題に加えて費用の面からも、導入に踏み切れないところがある。健康保険にはこの手術を対象にした費目がないからだ。
 そのため出産や痔(じ)の手術で肛門括約筋を損傷したときに行う手術の費目を適用して、健康保険が使えるよう配慮しているのだが、費用を十分にまかないきれない。
 「学会で発表すると、多くの外科医が興味を持ってくれます。経済的な問題がクリアされれば、やりたいと思っている医師は多いはず」(佐藤助教授)
 佐藤助教授の“発明”は他にもある。大腸ポリープを内視鏡で切除する、「ポリペクトミー」という方法がある。通常は内視鏡の先からリングを出して、ポリープに巻きつけて切除するのだが、ポリープの隆起が小さい時はリングを巻きつけられない。そこで、生理食塩水を根元に注射して、ポリープを浮き上がらせる。ただ、この方法だと注射後数分で組織に浸透して元に戻ってしまう。代わりにヒアルロン酸という物質を使うとその問題はクリアされるのだが、費用が高くつく。
 そこで考え出したのが「自己血」の使用。前もって患者自身の血液を採取しておき、ポリープの根元に注射するのだ。
 「自己血だから安全でコストゼロ。実際にやってみると、切除した部分が血でかたまって、うまい具合にふたをしてくれるんです。血がパッチをしてくれるという意味でブラッドパッチ法と名づけました」
 工夫を積み重ね患者のQOL(生活の質)を高め、あわせて医師の仕事まで改善してしまう。壮大なテーマの研究も必要だが、臨床の最前線で、いま目の前で困っている患者のために、こうした工夫ができる医師は、じつは少ない。佐藤助教授を頼る患者が、全国から那須をめざしてやって来る理由がそこにある。
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さとう・ともゆき 1985年浜松医科大学医学部を卒業。95年「新肛門」の研究で医学博士。98年、英国セントマークス病院リサーチフェロー。自治医科大学外科講師、2003年から国際医療福祉大学外科助教授。日本外科学会指導医、日本大腸肛門病学会指導医・評議員、日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医。米大腸病学会誌「DCR」査読者。
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