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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル9-2

【潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?】

潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいのかどうか。これは本当はとても難しい問題です。
一人の医者の経験からは何も言えない問題です。

なぜ、医者としてものが言えないの、と、思うかも入れませんね。
医者としてものが言えないのだとしたら、なぜ、患者を目の前にしたスモールレクチャーで講義をする意味があるのか、と、いぶかしがるでしょうね。

まず、そもそも潰瘍性大腸炎に大腸がんが多いと言い出したのは、どんな人なの?って、思うでしょ。
まず、そのような経験をしたのは当然、潰瘍性大腸炎を数多く診る専門病院のドクターです。ちょっと普通と違う形の癌だぞ、おかしいぞ、と思うわけです。そして、データを出す。ここはまでは、専門病院の研究者として当然の仕事ですよね。(これさえやらない日本の専門病院のお医者様がたくさんいますが、そのような人にならないでくださいね)
データを調べると、一般人よりも高率に潰瘍性大腸炎の患者さんに大腸がんが多いということがわかる。
そこで、
「10年以上経過した全大腸炎型の潰瘍性大腸炎には大腸がんが高率に発生し、その形態は肉眼的にわかりずらい形をとる」
と警告に似た論文を発表するわけです。
このような発表をいち早くできるのは、当然!世界に冠たる専門病院で、すでに世界をリードしてきた病院ですから、その事実は世界中にドグマとして広がるわけです。真実と考えられたのですね。

そのドグマが、教科書に載っているわけです。

しかし、事実というのは、それが得られた範囲の中でのみ、事実なのです。限界がある、ということです。

このドグマは、範囲を変えることにより、別の事実によって否定されたのです。

北欧の医療はデータを広く得ることのできるシステムを持っています。実は、その国単位の範囲の中では、潰瘍性大腸炎に癌の発生率は発表されたほどには高くなかったのです。
では、最初に報告した人たちは嘘をついたのでしょうか。そうかもしれません。最初の報告の栄誉に浴しようとすることはよくあることですから。
でも、他人を疑うのは最後にすべきですね。先人の研究が嘘だったと仮定すると科学は一歩も前に行きません。しかし、間違いだったと考えればその理由を求めることになり、一歩前に進むのです。

最初の報告が高率であったのは、専門病院の宿命だったと考えられています。
専門病院には、重症な潰瘍性大腸炎の患者さんが集中します。そのような重症な患者さんにおいては、当然、癌化率が高い、という結果だったんだろうと、考えられました。

でも、ドグマはそのまま生き残ります。
何せ、最初の報告というのは、インパクトがあり、皆の心にしみこみます。また、良い雑誌にも乗ります。教科書にも載ります。研究者はドグマに沿うように、あるいは、反発するように研究結果を発表していきます。二番目の報告は、無視されることがあります。


その後、多くの施設から潰瘍性大腸炎の癌化率が報告されます。高かったりそれほど高くなかったり。報告によるばらつきは当然あります。多くの患者さんを相手にする研究報告ですから、母集団から抜け落ちる患者さんもあるでしょう。検査の精度も異なるのでしょう。
ところが、癌化率とそれが報告された年をグラフにプロットしていくと、なんと、近年になるに従い、少しずつ、癌化率は低く報告されるようになってきたのです。
研究者の心が少しずつ、ドグマから解放されてきたのを示すのかもしれません。
また、これは潰瘍性大腸炎の診断の精度が上がり、母集団の潰瘍性大腸炎の患者数が増えたせいかもしれません。これが理由であれば、イギリスの専門病院で報告された最初の頃の報告と後に報告された北欧のデータの違いに似た理由になります。
でも、もう一つ、可能性はあります。それは、現実に、潰瘍性大腸炎の患者さんに発生する癌が近年になり減ってきた可能性です。データを出す測定法は確かなのに、昔と同じデータが出ないということもあるのです。

記憶してください。病気は時代によって顔つきを変えます。

潰瘍性大腸炎の炎症を抑える治療が少しずつ上手になって、その結果として潰瘍性大腸炎に発生する大腸がんのリスクが、全体として減少した可能性を指摘する研究者もいるのです。

潰瘍性大腸炎という病気そのものではなくて、炎症が癌をおこすリスクを上げていたのだとしたら、もっともな解釈です。

それならば潰瘍性大腸炎の患者さんに対しても朗報です。炎症を抑える毎日の治療が大腸がんの発生を抑えるのですから、すべてのために、炎症を抑えていけばいいといえるのです。

 【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える