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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル44

【肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠】

肛門の機能を評価する検査としては、問診、身体検査、マノメトリー検査、デフェコグラフィー検査および陰部神経検査があります。

古くは、問診と身体検査だけで肛門の機能異常を診断していました。もちろん、現在でも、それが基本です。また、ちまたの肛門科でそれさえ守られていないことをうかがわせる患者さん方が、私の外来にたくさん来ていますので、あなた方には、口をすっぱくして、検査のリスクもお金もかからない、問診と身体検査の重要性を強調したいと思いますね。

とはいえ、現在ではそれらに加えマノメトリー検査とデフェコグラフィー検査が一般化してきた。(実は、一般化しているというのはうそで、教科書に載るのが一般的になったということで、これらの検査を実際日常的に行っている施設はかなり限られた施設です)

マノメトリー検査とは、肛門機能のうち、肛門管によって形成される内圧を図る検査です。基本的には、力を込めないで楽にしているときの「安静時肛門内圧」と肛門を閉めているときの「収縮圧」、そして、内圧が形成される肛門管の長さ、つまり、「生理的肛門管長」を測定します。それらに、いくつかの特殊なものや、工夫を加えることをするわけですが、それは、ここでは述べません。複雑になって、結局、初期には検査の理解の邪魔になりますから。そういうことは、勉強のはじめにはよくあることですね。

さて、この内圧測定を基本としたマノメトリー検査ですが、よく、考えてください。

何を測定しているのでしょうか。私の答えてほしいこととは別の、通り一遍の教科書的な説明をしましょう。

「安静時の肛門内圧のデータは内肛門括約筋の異常の有無を示し、収縮圧の異常は外肛門括約筋の異常を示します。」

これは、肛門機能検査のドクマになっていますね。

実は、これさえも知らない、肛門科の医師を私はたくさん知っていますが、それは、それでお笑いの世界として、(にせ医者のような医者はよくいますからね。)これを知っているだけの肛門科の医者は、これまたとても多いのですね。それは仕方ありません。肛門機能検査をしている肛門科が、肛門科や大腸外科を掲げている一般診療所、病院、大学病院でどれほどあるか、実は非常に少数であるから、仕方がないのですが、これらを専門にしているものたちからみると、とてもお寒い状況なのですね。

それはさておき、少し、説明を進めましょう。

先ほどのドクマはある一定の範囲内では正しいのです。

しかし、実は、肛門の機能検査と内圧検査とは、同じものではないのですね。なぜ、肛門機能を、内圧を計ることで、評価しようとしたのだと思いますか。

肛門機能のすべてが、内圧を高めることだからですか。

こういう訊き方をすると、すぐ、この質問の答えは、否であることがあなた方にはわかりますね。すべてが、、、、という訊き方の場合は、たいてい否なのですね。

では、訊き方を変えましょう。

肛門機能の代表的なものは、内圧を高めることなのですか。

このような聞き方をして始めて、その内容を吟味しようとしはじめるのは、受験テクニックとなせる業ですね。でも、ここでは、それに踏み込みません。

よく、考えてみると、肛門機能を内圧で評価する、理由は、簡単に見つからないことに気がつきます。

確かに、便が漏れそうになるとき、括約筋に力を込めれば、内圧はあがるでしょう。でも、肛門は内圧を高めて、便を漏れにくくしているのでしょうか。

ここは、意見が分かれるとことかもしれませんが、内圧を高めることと、便をもれにくくすることは、同じことではないのです。ただ、括約筋の収縮によって、便を我慢するとき、副次的に、肛門の内圧も高まるような、形になっている、ということです。内圧の力で便を我慢しているわけではないということです。

では、なぜ、内圧で、肛門機能を評価するようになったか?

それは、簡単な理由があるのですね。

内圧しか、測定できなかったからです。そして、その内圧データが、肛門の臨床機能と許される範囲で、相関していたからですね。

内圧の低下は、肛門の障害の程度を示すと考えたほうがいいのですね。肛門のもっている、複雑な能力のシステム、いわば「肛門システム」というものの破壊度をしめす指標と考えたほうがいいのです。

ですから、内圧がさかれば、肛門システムが壊れていて、内圧が正常であれば肛門システムを正常であると。

しかし、これは、ある一定の範囲内でしか相関しないのです。

つまり、肛門でないものの比較や評価にはつかえないのです。肛門システムというものがなくなった後の、「肛門」や、その治療の指標には使えないということです。内圧の低下は、正常の肛門の機能低下を示しますが、正常の肛門でないものの、機能評価にはつかえないのす。

たとえば、痔ろうの手術で破壊された肛門の機能の比較や、その治療の評価。そして、肛門再建によって造られた肛門。

一度、学会で括約筋再建をした場合に、内圧はその臨床と相関しないと述べたとき、それを利用して、肛門を温存した手術後の肛門機能の悪さに対しても、内圧は無意味なので内圧の低下は肛門機能の低下を意味しないと、述べられた大学教授がいましたが、大きな間違いを犯しているのですね。それは、とりもなおさず、温存したと思っている肛門では、肛門システムが失われている、擬似肛門にしか過ぎないということなのですね。

本当は、温存した肛門の機能には、内圧検査が有効です。それは、手術によってどの程度「肛門システム」が破壊されているかの程度指標になるからです。一方、再建された括約筋による肛門機能の評価には、内圧はそのままでは使えません。なぜなら、肛門であって、肛門でないのですから、内圧は、排便機能と相関しないのです。本当は、別の指標が必要なのです。

一見似たようなものを測定しているつもりでも、その原理や歴史を知らないと、おかしな誤りに陥ってしまうことは、いろいろな場面であるのですね。

また、一般に、検査というものの限界として、それが有効な範囲というものがあることにも気をつけてください。

難しい話ですが、理解できましたか。理解できても、この範囲は、試験に出ません。国家試験に出ませんからね。なぜ、国家試験に出ないかということは、ここでは述べませんが、考えれば自明ですね。


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える