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  ここは「大腸・肛門、そして骨盤底の疾患」に特化した、ウェブ情報サイトです。大学病院でのスモールレクチャーに基づいて作られました。
  スモールレクチャーとは、学生や研修医に対してベッドサイドやカンファレンス室で行われる、臨床に即した小規模の講義で、自由な雰囲気で行われるものです。

大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル45

【肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について】

 

Defecography(デフェコグラフィー、排便造影)について述べましょう。

デフェコグラフィーも、肛門機能を評価するときの重要な検査法ですが、やはり、これを日常臨床で検査している施設は、非常に少ないといえます。この検査を日常臨床的に行っている肛門科は、全国で5指に満たないのではないでしょうか。大学病院でも、この検査を行っているところは、やはり5指に満たないと思います。

大腸を検査する方法に、注腸造影検査があります。この注腸検査は、大腸がんや大腸ポリープを発見することを目的に行うもので、水様のバリウムを肛門から大腸に注入し、その後に、空気を注入し、結果として、バリウムが壁面に付着した、バリウムと空気のコントラスト像を作るものです。この二重のコントラスト像が大腸の粘膜の微細な立体構造を映し出します。このコントラスト像は、おそらく日本で発達したもので、胃の二重造影法から、そのテクニックを援用したものでしょう。胃の二重造影法は日本で発達したものですから。

日本では、バリウムと空気の二重造影像を重宝がりますが、欧米では、いや、少なくとも英国では、バリウム液の充填像を平気で研究会で提示しています。日本の研究会でそんな画像を提示したら、笑いものになるか、無視されるかのどちらかだと思います。

こういう点をじかに見ると、日本の臨床は、レベルが高いなと、思いますね。

さて、今回は、そんな注腸検査の話ではなく、デフェコグラフィーの話ですが、注腸検査は、大腸の癌やポリープを見つけるのが目的でしたが、デフェコグラフィーの目的は、肛門機能の評価ですから、自然、撮影方法が異なります。

まず、バリウム液を大腸に入れたのでは正常の肛門機能が測定できません。

なぜでしょうか。

それは、液体のバリウムを検査に用いたのでは、下痢と同じで、下痢のときの肛門機能の検査にはなるかもしれませんが、正常の便に対する肛門の機能の検査とはいえませんね。しかも、条件を合わせて検査するという検査法の大原則からも離れてしまいますので、注腸検査と同じようには、バリウム液を使うわけにはいきません。

そこで、バリウムを便と同じくらいに固めたものを使って、検査することになります。

教科書的には、パンケーキを焼くときに使う小麦粉をつかって、パンケーキの原料を作るような要領で、便と同じ硬さにすることが記されています。しかし、それはそれで、いろいろな工夫があります。それは、実際の、検査を見学するときに話しますね。

便と同じ硬さのバリウムを腸の中に入れるというのはまた、簡単なことではありません。液体を肛門から入れるのならば、注射器と管を使って入れれば簡単ですね。しかし、便の硬さでは、管が詰まってしまいます。注射器で押し出すということも難しいのですよ。一度、便を、いやいや、便ではちょっと大変ですから、便と同じ硬さのものを注射器に入れて押してみてください。できないと思います。

そこで、また、工夫が必要なのです。それも、実際の検査を見学するときに説明しますね。

でも、最初は、こんなことが、検査の躓きでした。いったい、どんな風にして、便と同じ硬さの検査用バリウムを作ったらいいのか。どんな風にして、それを、大腸に入れればいいのか。実際、初めて検査しようとしたら、皆さんは、どんな風にしようと思いますか。自分で考え付きますか。

そして、それ以外に、またまた、難題がありました。

排便造影は排便している大腸を側面から、レントゲン撮影をしなければなりません。しかし、泌尿器科でつかう、排尿用のレントゲン装置では、撮影できないのです。それは、正面撮影と、側面撮影では、レントゲンの条件が違い、よりいっそうのレントゲン上位機種が必要だからです。実際、私が、大学で検査し始めるとき、それも大きいな、障害でした。レントゲンで、バリウムが見えなかったのです。

それから、側面像をとると、初めて気がつくことですが、側面の体のデンシティーが大きすぎて、体の境界線で空気のそれと、差が大きすぎて、画像で飛んでしまうのです。つまり、いい画像が取れないということです。これには最初、鉛の板を張ることで工夫しました。しかし、鉛の板を張ることは、一回限りの検査ではいいのですが、何回も検査をするとすぐ、はがれてしまうのです。上手くいきません。

そこで、その解決に、水を入れたゴムのタイヤの上に、座ってもらって、検査をすることにしました。そうすると、いい画像が取れるのです。

それは、あとで、解説しますね。

しかし、またまた、問題があるのは、ゴムのタイヤが、便器の大きさと合わずに、すぐ、ずれてしまうということです。

そこでまた、工夫が必要になります。

さらに、便器にすわって検査をすることになるのですが、もちろん、病院で見かける、ポータブル便器というやつですが、その上位機種では大きすぎて、レントゲン台の前にすえつけられなかったり、便器だけでは、台が低すぎて、レントゲン検査の位置にあわなかったり、いろいろ、工作室に頼み込んで、小細工をしてもらいました。

確立した検査であっても、新しく始めるときには、難しいことが多いものです。

こんなことも、君たちが、臨床に携わるようになると、案外、大事な点なのですね。机上の空論ではないですから、医学は。

それから、排便造影の終わりには、入れた、造影剤を排便してもらうのですが、これの回収をどうするかもまた、問題でした。

そして、このような検査をする上で、スタッフの協力をどのように得るか、これが大変でした。排便の検査といっても、その重要性なんて、わからないですからね。いままで行われていなかったことですから、、、つまり、なくてすんでいた検査ですから、最初から、重要性を別れというほうが、土台無理な話なのですね。それを、説明し、納得させ、そして、検査をする側の熱意で、協力を得るということ、これが大事なのですね。これは、デフェコグラフィーに限った話ではないですね。

それから、検査を受ける患者さんにも、この検査の重要性を説明しなければなりません。そして、排便という、泥臭い下世話な機能の検査ですから、検査前、検査中に患者さんと、どのように接してどのように話しながら、検査を進めていくか、それは、とても、人間的な問題で、大切な点なのです。10年以上前でしょうか。イギリスのこの検査の権威が来て、この検査の話を日本でしたことがあったのです。その話の最後に、結局、この検査が上手くいくかどうかは、この検査をする医師の態度に尽きるということをいっていました。そういう意味で、この検査は、どんな医師にもできるというわけではありません。その問題があるので、実は、他の人に、この検査を任せることができず、自分で、時間を割いて検査をいなければなならない、つまり、手がかかる検査であるということなのです。ですから、この検査は、広まらないのかもしれません。この検査がその病院で確立された検査になっても、担当する医師がかわってしまっても機械的に受け継ぐことのできる検査ではないという点です。

医者によっては、その点で、検査がスムーズに進まないということになるのです。

さて、口で説明してもよくわからないと思いますので、これから、この検査をしますから、レントゲン室の外で見ていてください。

この検査は、医師の人間性や熱意が試される検査ともいえます。

(わかりにくい章だったかもしれませんね。)


【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】


  大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャルの目次
001 このフェブサイトについて
002  なぜ、大腸・肛門・骨盤底の疾患に特化したホームページを作ろうとしたのか?
003  大腸ポリーがありますよ、といわれたら
004  大腸がんの話
005  22歳女性の肛門癌
006  大腸癌の危険率、そして、検診の確認の甘い罠
007  直腸カルチノイド
008  直腸カルチノイドの怪
009  潰瘍性大腸炎と大腸癌
009-2  潰瘍性大腸炎に大腸がんができやすいの?本当なの?
 010  クローン病
 010-2  大腸クローン病
 011  虚血性腸炎
 011-1  虚血性腸炎
 012  薬剤性腸炎=出血性腸炎
 013  抗生物質による偽膜性腸炎
 014   しばらく、感染性腸炎の話をします。
 015  O157腸炎 (O157大腸炎)
 016 トラベラーズ腸炎
 017  ノロウイルス腸炎
 017-2  胃は吐くために進化した臓器である
 018  MRSA腸炎
 019  骨盤炎 ダグラス窩膿瘍
 020  放射線性腸炎
 021  恐るべし、放射線治療後の膀胱
 022  閉塞性大腸炎
 023  腸閉塞と例え話あるいは、例え話の閉塞状況
 024  急性虫垂炎の24歳の女性
025   シマウマのような12歳の少女の虫垂炎
 026  卵巣がんのダグラス氏窩転移
 027  過敏性大腸症
 028  偽性腸閉塞症
 029  慢性便秘
 029-2 便秘ですか
 029-3
 大腸は便秘するためにある。
 030  巨大結腸症とS状結腸過長症
 031  肛門病スペシャル
 032
 肛門病スペシャルの名にふさわしい、ザ裂肛
 033  内痔核 その対称性の乱れ
 034  痔と直腸癌
 035  内痔核の話を続けましょう。
 036  痔と直腸癌 痔という病気
 037
 直腸異物
 038  肛門管の話を続けましょう
 039  内痔核の分類  Goligher分類
 040  骨盤底筋群ということばが好きな理由
 041  陰部神経のドグマ
 042  陰部神経の新しい検査法の開発には理由がある
 043  陰部神経潜時測定で何がわかったのか
 044  肛門を評価する(1)マノメトリーという准基本検査の罠
 045 肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
 Defecography 排便造影)について
 046 肛門の“8の字ダンス”
 047  ポリープをとってほしかった
 048  大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法
 049
 別稿 大腸ポリープに対する安全な新しいポリペクトミー(EMR)の方法
 050  診療の秘訣 ブラッドパッチEMR
 051 打撃フォームを変えるにも等しいこと
 052  欠番
 053  消化器外科医の実力
 054  新聞や雑誌に載る「病院の実力」の意味するもの
 055  セカンドオピニオン ブルース
 056 セカンドオピニオン 異聞
 057  不信感という時代のキーワード
 058  そう説明してくれればわかります
 059  セカンドオピニオン異聞 裏の裏
 060  文系のための医学誌
 061  包茎は手術するべきか、受けるべきか。わたしの裏技手術
 062  太ることと大腸癌
 063 さいたま新開橋クリニック
 064   直腸癌は疫学的に異なるカテゴリーに属する
 065  大腸癌の原因は肉食???本当に本当なの?
 066  盲腸ポート
 067  最善を尽くしましょうと請け負っていた外科医が
 068  病気が顔を変える