【肛門を評価する(2)デフェコグラフィー
(Defecography 排便造影)について】
Defecography(デフェコグラフィー、排便造影)について述べましょう。
デフェコグラフィーも、肛門機能を評価するときの重要な検査法ですが、やはり、これを日常臨床で検査している施設は、非常に少ないといえます。この検査を日常臨床的に行っている肛門科は、全国で5指に満たないのではないでしょうか。大学病院でも、この検査を行っているところは、やはり5指に満たないと思います。
大腸を検査する方法に、注腸造影検査があります。この注腸検査は、大腸がんや大腸ポリープを発見することを目的に行うもので、水様のバリウムを肛門から大腸に注入し、その後に、空気を注入し、結果として、バリウムが壁面に付着した、バリウムと空気のコントラスト像を作るものです。この二重のコントラスト像が大腸の粘膜の微細な立体構造を映し出します。このコントラスト像は、おそらく日本で発達したもので、胃の二重造影法から、そのテクニックを援用したものでしょう。胃の二重造影法は日本で発達したものですから。
日本では、バリウムと空気の二重造影像を重宝がりますが、欧米では、いや、少なくとも英国では、バリウム液の充填像を平気で研究会で提示しています。日本の研究会でそんな画像を提示したら、笑いものになるか、無視されるかのどちらかだと思います。
こういう点をじかに見ると、日本の臨床は、レベルが高いなと、思いますね。
さて、今回は、そんな注腸検査の話ではなく、デフェコグラフィーの話ですが、注腸検査は、大腸の癌やポリープを見つけるのが目的でしたが、デフェコグラフィーの目的は、肛門機能の評価ですから、自然、撮影方法が異なります。
まず、バリウム液を大腸に入れたのでは正常の肛門機能が測定できません。
なぜでしょうか。
それは、液体のバリウムを検査に用いたのでは、下痢と同じで、下痢のときの肛門機能の検査にはなるかもしれませんが、正常の便に対する肛門の機能の検査とはいえませんね。しかも、条件を合わせて検査するという検査法の大原則からも離れてしまいますので、注腸検査と同じようには、バリウム液を使うわけにはいきません。
そこで、バリウムを便と同じくらいに固めたものを使って、検査することになります。
教科書的には、パンケーキを焼くときに使う小麦粉をつかって、パンケーキの原料を作るような要領で、便と同じ硬さにすることが記されています。しかし、それはそれで、いろいろな工夫があります。それは、実際の、検査を見学するときに話しますね。
便と同じ硬さのバリウムを腸の中に入れるというのはまた、簡単なことではありません。液体を肛門から入れるのならば、注射器と管を使って入れれば簡単ですね。しかし、便の硬さでは、管が詰まってしまいます。注射器で押し出すということも難しいのですよ。一度、便を、いやいや、便ではちょっと大変ですから、便と同じ硬さのものを注射器に入れて押してみてください。できないと思います。
そこで、また、工夫が必要なのです。それも、実際の検査を見学するときに説明しますね。
でも、最初は、こんなことが、検査の躓きでした。いったい、どんな風にして、便と同じ硬さの検査用バリウムを作ったらいいのか。どんな風にして、それを、大腸に入れればいいのか。実際、初めて検査しようとしたら、皆さんは、どんな風にしようと思いますか。自分で考え付きますか。
そして、それ以外に、またまた、難題がありました。
排便造影は排便している大腸を側面から、レントゲン撮影をしなければなりません。しかし、泌尿器科でつかう、排尿用のレントゲン装置では、撮影できないのです。それは、正面撮影と、側面撮影では、レントゲンの条件が違い、よりいっそうのレントゲン上位機種が必要だからです。実際、私が、大学で検査し始めるとき、それも大きいな、障害でした。レントゲンで、バリウムが見えなかったのです。
それから、側面像をとると、初めて気がつくことですが、側面の体のデンシティーが大きすぎて、体の境界線で空気のそれと、差が大きすぎて、画像で飛んでしまうのです。つまり、いい画像が取れないということです。これには最初、鉛の板を張ることで工夫しました。しかし、鉛の板を張ることは、一回限りの検査ではいいのですが、何回も検査をするとすぐ、はがれてしまうのです。上手くいきません。
そこで、その解決に、水を入れたゴムのタイヤの上に、座ってもらって、検査をすることにしました。そうすると、いい画像が取れるのです。
それは、あとで、解説しますね。
しかし、またまた、問題があるのは、ゴムのタイヤが、便器の大きさと合わずに、すぐ、ずれてしまうということです。
そこでまた、工夫が必要になります。
さらに、便器にすわって検査をすることになるのですが、もちろん、病院で見かける、ポータブル便器というやつですが、その上位機種では大きすぎて、レントゲン台の前にすえつけられなかったり、便器だけでは、台が低すぎて、レントゲン検査の位置にあわなかったり、いろいろ、工作室に頼み込んで、小細工をしてもらいました。
確立した検査であっても、新しく始めるときには、難しいことが多いものです。
こんなことも、君たちが、臨床に携わるようになると、案外、大事な点なのですね。机上の空論ではないですから、医学は。
それから、排便造影の終わりには、入れた、造影剤を排便してもらうのですが、これの回収をどうするかもまた、問題でした。
そして、このような検査をする上で、スタッフの協力をどのように得るか、これが大変でした。排便の検査といっても、その重要性なんて、わからないですからね。いままで行われていなかったことですから、、、つまり、なくてすんでいた検査ですから、最初から、重要性を別れというほうが、土台無理な話なのですね。それを、説明し、納得させ、そして、検査をする側の熱意で、協力を得るということ、これが大事なのですね。これは、デフェコグラフィーに限った話ではないですね。
それから、検査を受ける患者さんにも、この検査の重要性を説明しなければなりません。そして、排便という、泥臭い下世話な機能の検査ですから、検査前、検査中に患者さんと、どのように接してどのように話しながら、検査を進めていくか、それは、とても、人間的な問題で、大切な点なのです。10年以上前でしょうか。イギリスのこの検査の権威が来て、この検査の話を日本でしたことがあったのです。その話の最後に、結局、この検査が上手くいくかどうかは、この検査をする医師の態度に尽きるということをいっていました。そういう意味で、この検査は、どんな医師にもできるというわけではありません。その問題があるので、実は、他の人に、この検査を任せることができず、自分で、時間を割いて検査をいなければなならない、つまり、手がかかる検査であるということなのです。ですから、この検査は、広まらないのかもしれません。この検査がその病院で確立された検査になっても、担当する医師がかわってしまっても機械的に受け継ぐことのできる検査ではないという点です。
医者によっては、その点で、検査がスムーズに進まないということになるのです。
さて、口で説明してもよくわからないと思いますので、これから、この検査をしますから、レントゲン室の外で見ていてください。
この検査は、医師の人間性や熱意が試される検査ともいえます。
(わかりにくい章だったかもしれませんね。)
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