【大腸ポリープに対する切除法 blood patch EMRという方法】
わたしの開発した大腸ポリープの切除法を紹介します。
大腸ポリープを切除する場合、確実に切除することと安全に切除することが、絶対条件です。当たり前のことですね。
この治療を受ける立場に立てば、安全でなければ、これほど怖いものはありません。
大腸という深くて長いトンネルの中での手術なのです。ひとたび、トラブルが起こったら大変なのはちょっと想像しただけでわかるでしょう。
安全に大腸ポリープを切除するために、臨床医としておこなわなければならないのは、まず、基本的なテクニックをマスターし、いわゆる名人になることです。たいていの医者は、名人になることをあきらめてごまかしている、(患者を? イエス、そして自分を)。
少数の医者は、名人に近づいて満足している。(患者も、医者も)。
そしてさらに少数の医者は、名人に限りなく近づいて満足している。
そして、さらに少数の医者が、名人に限りなく近づいて、さらに飽き足らず、もっとすぐれた方法を開発する。臨床医の工夫は、臨床の能力がその時点での世界最高に達して、なお、良いものを目指そうというときに生まれるものであると信じます。
従来、きのこのように飛び出たポリープをとるときは、そのポリープにスネアとよばれる金属の輪を回してかけて、電気で焼ききっていました。
きのこのように飛び出ていないいわゆる平坦型のポリープをとるために、平坦型ポリープの下の層に生理食塩水を注入してきのこのように盛り上がらせ、ポリープを切除する、ストリップバイオプシー(内視鏡的粘膜切除術、EMR)という方法が、開発されました。従来の方法は、周囲の組織も必要以上に焼いて、場合によっては、大腸に穴が開いてしまう事故も少なからず起こっていましたが、ポリープの下に生理食塩水を注入してポリープを切除する内視鏡的粘膜切除術、EMRという方法は、電気で焼き取る際、下の組織との間の生理食塩水のクッションを用意することとなり、従来の方法より安全であることが、わかりました。
その後、注入する物質は、生理食塩水の代わりに、いろいろな物質が用いられる工夫がおこなわれました。しかし、その物質の選択基準は、切除操作にかかる時間が長くても大丈夫なように出来るだけ長い時間粘膜下層にとどまる物質開発と実践だけで、安全性を考慮した物質の探求はほとんどおこなわれませんでした。
そこでわたしは、長い臨床経験の中で、内視鏡的ポリープ切除をした際、粘膜下に血腫が出来る出来事が起こったことからヒントをえて、意図的に、粘膜下層に患者さんの自己血液を注入し、長時間の粘膜の膨隆と血液による止血効果の両者を狙った、新しいポリープ切除法、ブラッドパッチEMR(血液パッチポリープ切除術)を開発しました。アイデアは至極簡単です。なぜ、今までこのような方法に気がつかなかったのか不思議でなりません。本人の血液ですから、何の害もありません。まさに、コロンブスの卵といえます。
このようにして開発したブラッドパッチEMRを紹介します。ここをクリックしてください。
なお、このポリペクトミーの方法は、何度か学会で発表し、2006年には米国の学会誌にも論文として、出版報告しました。
実は、この論文投稿の過程で、学会誌のレフリーと意見が合わず、1年ぐらい、余分に時間を費やしてしまい、また、さらに、eメールの手違いで3ヶ月ぐらい、出版が遅れてしまったのです。そして、私の論文が出ると、すぐに同じアイデアで、アメリカのチームから動物実験の論文が出ました。また、ドイツのチームからも動物実験の学会報告がありました。驚きました、私が、片田舎で、臨床で用い、また、日本の学会で発表しているころは、世界中のどこにも見当たらないテクニックであったのに、あっという間に、ヨーロッパと、アメリカで、動物実験が組まれたのです。結局、一足先に、私の論文が印刷されたため、いわゆるプライオリティーという意味では私に分あるのですが、もし、論文印刷がさらに遅れていたら、片田舎で臨床をしている私は、ほとんど無視されたままになってしまったでしょう。
日本人が世界に仕事を発表する難しさを痛感させられる出来事でした。
【the web 大腸・肛門・骨盤底疾患スペシャル】